エッセイの部屋


環境新聞「地球タイムス」連載

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この星に生けるものたち
               アフリカ編1回 
     マウンテンゴリラ

1年前のこと、国連はアフリカと東南アジア23カ国に、緊急会議への出席を呼びかけた。
 絶滅の危機に瀕している大型類人猿の救援戦略を練るためだった。
 わたしたち人類の親戚ともいえるゴリラ、オランウータン、チンパンジーは、この地球上から消えてしまう最終時刻まで、あと1分のところにいるという。
 彼らは、インドネシアとマレーシアにいるオランウータンをのぞいて、あとはアフリカで生きている生きものたちだ。
 マウンテンゴリラの数は700頭にも満たない。生息地は、中央アフリカ一帯、赤道直下の国、ウガンダ、ルワンダ、コンゴ民主共和国。この三つの国の国境地帯に広がる森林に生存している。 彼らをおびやかしている深刻な問題をあげてみる。
 まず、これらの国が内戦や紛争などで、国情が不安定なこと。住む場所を追われたたくさんの難民が国境を越えたり、森林に逃げ込んだりしている。森林に埋められた地雷も大きな問題で、たとえ紛争が終わったとしても、地雷を撤去するのは容易なことではない。
 アフリカの森林は急激に減っている。その結果、森林の生きものたちと人間との境界がなくなり、マウンテンゴリラも食べものを求めて、人間社会に入り込まざるをえない。人間の病気がゴリラに感染する危険は増大するばかりだという。
 商業目的の開発も問題だ。地元や海外の企業がそれまでは道などなかった森林の奥深く、道路をつくっている。道ができれば貧困にあえぐ人びとは森深く入り込み、木を切り農地にしてしまう。 もともと熱帯の森林の土壌は農業に向いていないうえに、農作の知識も乏しいことから、森林の状況はますます悪くなる。コンゴ側の森林の8割は、すでに海外企業に売り渡されてしまっているらしい。
 追いつめられていくマウンテンゴリラの環境の悪化をあげたが、さらに密猟がある。密猟の主な目的は「ブッシュミート」。つまり食用の肉として売られてしまうのだ。 人びとの年間平均的世帯収入は100ドル以下だそうだが、密猟は300〜1000ドルの収入にもなるそうだ。
 アフリカのゴリラは、生息地を毎年2・1パーセントの割合で失っているという。



 この星に生けるものたち
               アフリカ編第2回

      アフリカゾウ

 戦争や紛争は人間ばかりでなく、そこに生きる生きものたち全てを不幸にする。
 中央アフリカにあるコンゴ民主共和国。ここに10,800平方キロもあるマイコ国立公園がある。首都のキンシャサから東北東に1000キロ以上も行ったところの、標高850メートルの平原地帯で、公園のほとんどは森林。
 この森にアフリカゾウ、ローランドゴリラ、オカピ、チンパンジーなどが生息している。
 ところが、アフリカ大陸の優れた生物多様性に富んだ公園は、かつて象牙の密猟者が暗躍するところだった。
 地球上に生きる陸生動物で最大のアフリカゾウが激減したのは、1970年代から10年間ほどで、それはアフリカ各地で紛争が激化したのと重なる。134万頭いたのが、62万頭にまで減ってしまったという。国際的に取り引きされる象牙が、紛争に使う武器の購入資金にもなるからだ。
 89年になって、ワシントン条約の第7回締約国際会議で国際取引は禁止されたのだが、99年には日本だけがボツワナ、ナミビア、ジンバブエから約50トンも輸入した。
 日本は世界最大の象牙消費国だという。
 かつては年間平均270トンもの象牙を輸入していた。これはゾウ10000〜15000頭分にもなる。 象牙の6割は印鑑に加工された。
 記憶にある限り、家族や周囲の者が持っている印鑑は、どれも象牙だった。
 もともと日本にはいない動物の骨を、こんなにも好きなのはなぜだろう。 ワシントン条約ができてからも、日本政府はなぜ公然と輸入するのだろう。「商業貿易再開を目指し、国際的な環境整備を推進するための業界の取り組みを支援することが必要」と経済産業省はいっているそうだが、どういうことだろう。疑問ばかりだし、わからないことだらけだ。
 アフリカのジンバブエでは、野生生物の保護と称して、ゾウの間引きやゲームハンティングが政府公認で行われているという。ゾウは大量の草木を食べるから、増えすぎると他の生きものの生息地を脅かすおそれがあるから、というのが政府の言い分だそうだ。
食べるものがなくなって、山から里に出てきたクマやサルを、生息地を脅かすといって退治するのと同じ論理だと思う。「脅かす」存在は、実は人間のほうなのだ。



この星に生けるものたち
            アフリカ編第3回
   チーター

 アフリカを調べていて驚くのは、子どもの頃から馴染みのある生きものたちの多くが、絶滅の危機に瀕していることだ。
 「野生動物の天国」そういわれていたアフリカは、もうなくなってしまった。地上の最速ランナーであるチーターも、例外ではない。
 チーターは格別の思い入れがある生きものだ。だいぶ前になるが、数年前、電話で話していた友人がいった「あなたの声に混じって動物の声がきこえる」と。そのとき、私の周りにはだれもいなかった。不思議には思ったが、なんだか悪い気はしなかった。それからしばらくして、その話を霊感力がある知人にしたところ、彼女は私の顔をみて「チーターがみえる」といった。その頃て動物占いが流行っていて本をみたら、なんと私はチーターだったのだ。
 ひとつひとつが偶然の重なりだったのかもしれないが、理屈では片づけられない不思議な出来事が、ネコ好きの私にはたまらなくうれしかった。
 そのチーターは、もちろんネコ科の動物で、アフリカのサバンナに生息している。他のネコ科の動物とちがうのが、爪をひっこめることができないことだ。この爪は走るときにスパイクの役目をしているという。  走る速さは、時速90〜100キロメートル以上。ただこのスピードで疾走できるのは、200〜400メートルくらいらしく、短距離向きの動物だ。
 チーターはかつて、アフリカからインドに至る地域に生息していた。ところがサバンナの減少でどんどん数が減り、アフリカ以外では、イランにアジアチーターが残っているだけ。20世紀のはじめには10万頭もいたのが、いまでは1万頭ほどだという。
 アフリカ南部のナミビア共和国では、チーターの保護活動が行われている。中心になっているのは「チーター保護基金」の創設者であるローリエ・メイカーさん。アメリカ・オレゴン州のサファリパークで獣医補佐をしていた人だ。 メイカーさんは「野生のチーターを地球上で永遠に歩き回らせよう」と、1991年にナミビアに移住したという。当時、農場主が自分の農場を守るために、野生動物を射殺することを、ナミビアの法律で認められていた。いまでは3分の2の農場が、チーターが走り回るのを認めているということだ。





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