エッセイの部屋


環境新聞「地球タイムス」連載

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この星に生けるものたち
               オセアニア編・第1回 
     カカポ

 ニュージーランドには飛べない鳥カカポがいる。あまりなじみのない名前だが、日本名では「フクロウオウム」というのだそうだ。
 「カカ」はオウムで「ポ」は「夜」という意味。これはニュージーランドの先住民マオリ族の言葉だ。
 体重は4キロ近く全長は60センチもあって、オウムとしては世界最大クラスといっていいだろう。  セキセイインコに似た明るい森の色を身にまとった森の住人カカポは、かつてニュージーランド全域に棲んでいたらしい。それが1980年代になって、ようやく保護のための捕獲が始まった。現在ではコッドフィッシュ島など三つの島に移されて保護されているが、50羽ほどが生息しているだけで、もともとの生息地には一羽もいない。
 ニュージーランドに、ポリネシアあたりから舟に乗って人間がやってきたのは、8世紀頃だといわれているそうだ。この人びとがマオリ族で、13世紀以降になると大量に移住してきて、この地を「アオテアロア(白く長い雲がたなびく国)と呼ぶようになった。
 ところが、1642年にオランダ人の探検家によって発見されてからは、他の国々と同じように白人が支配する国へと変わり、マオリ族は先住民として少数民族になっていく。
 8世紀以前のニュージーランドについては、人間はいなかったというのが定説のようだ。島はほとんど森林でおおわれ、湖や渓谷も多く、カカポ、モア、タカへなどの大きな鳥がたくさんいて、彼らが島の主人公だった。
 ニュージーランドは、映画「ロード・オブ・ザ・リング」の撮影舞台になったほどだから、今でも自然が豊かな国として知られている。
 この島を人間が支配し始めるようになると、鳥たちは食糧として狩られていくようになり、体長3、4メートル、体重250キロもあったという、ダチョウに似た鳥のモアをはじめ、多くの鳥たちが絶滅していった。モアを燻りだすために森は焼き払われ、美しい羽をもつカカポも、餌食になっていった。
 ヨーロッパから移住してきた白人たちは、鳥の天敵であるネコやイタチやイヌを連れてきた上、牧場を作るためにさらに森を焼き払っていった。


 この星に生けるものたち
              オセアニア編 第二回

      カカポ(2)

ーその知性は尊敬に値する。その無力は同情に値する。その鳥をよく知っている者なら誰でも、その優しい気性故に、その鳥を慕う。親切に感謝で報い、犬のように情愛深く、仔猫のようにお茶目なのが、この鳥である。―  これは、1905年にカカポの問題に取り組んだ、フットンとドラモンドという人の言葉だ。その鳥とは、もちろんカカポ。
 哺乳類の捕食者がいない環境で何千年も生きてきたカカポの、自己防御法は、ただじっとしていることだという。
 緑の森の色を身にまとった大きな鳥が、保護色の羽をカモフラージュにすることでしか、敵から身を守れないというのは、あまりにも無防備だ。だが、かつての天敵オオワシは、目で狩をしたからこれでよかった。
 だが、新住民のヨーロッパ人は、猫やイタチ、ネズミ、イヌを持ち込んだ。哺乳類は匂いを頼りに狩をする。カカポは甘い麝香臭をもっているというから、たちまちにして餌食になってしまった。 マオリ人もカカポの羽でマントを作ったり、マットレスや枕の詰め物にも使ったという。食糧にもしたという。
 空前の殺戮が始まったのは、1845年にヨーロッパ人が発見してからのことだ。ニュージーランドがゴールドラッシュに沸いたときには、金鉱掘りたちが食べまくったし、探検隊や観光客もカカポの肉を喜んで食べた。イヌの餌になった時代もあったという。
前回、生息数は50羽と書いたが、国を挙げての保護活動の成果もあって、80羽くらいは繁殖しているという。
 日本にも「カカポ基金」という非営利団体があって、ニュージーランド自然保護省が行っているカカポ保護増殖計画に寄付の形で協力している。
 この団体によると、カカポは「ロバのようにいななき、ネコのように遊び、ブタのように鼻を鳴らし、ウサギのように地面に穴を掘って暮らし、フリージアの匂いがする、人間の赤ん坊くらいの大きさのもの」と紹介されている。
 鳥というイメージからはほど遠いが、不思議で貴重な生きものだということがわかる。カカポが昔のようにたくさんいる、そんなニュージーランドを想像するだけでも楽しい。






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